廃止措置に向けた研究開発

8-6 1F原子炉建屋内に残存するセシウムの性状予測に向けて

−セシウムの非鉄構造材料への吸着挙動を解明−

図1 1F2号機原子炉建屋内の制御棒駆動機構交換用レールとシールドプラグ

図1 1F2号機原子炉建屋内の制御棒駆動機構交換用レールとシールドプラグ

1Fにおける内部調査により、2号機や3号機では赤色で示したシールドプラグ、さらに2号機ではCRD交換用レールのところで予想外に線量が高くなっていることが報告されています。

 

図2 セシウム蒸気との化学吸着試験前後の保温材の外観

図2 セシウム蒸気との化学吸着試験前後の保温材の外観

800 ℃の試験では、ケイ酸カルシウム保温材は大きな度合いで収縮するとともに7〜8割の重量増加がありました。セシウムが化学吸着することでケイ酸カルシウム保温材がCRD交換用レール上に落下し、高線量になったのではないかと考えています。

 

表1 水酸化セシウム水和物試薬とコンクリートとの高温化学反応生成物

水酸化セシウム水和物(CsOH・H2O)試薬とコンクリートとの混合粉では、室温でも化学反応を起こすことが確認されました。そのため、エアロゾルの形態で気相中に存在するセシウムがコンクリート製のシールドプラグと反応することで高線量になったのではないかと考えています。

表1

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃止措置では、ガンマ(γ)線源の大半を占めるセシウム(Cs)の原子炉建屋内での分布や水溶性などの性状に関する情報が重要になります。そして、1F2号機の内部調査によれば、調査時点においてCRD交換用レール付近では吸収線量が最大42 Gy/hとペデスタル内の7 Gy/hよりも高く、シールドプラグでは表面のγ線線量が6〜11 mSv/hとそれ以外の床面の0.1〜数mSv/h程度よりも予想外に高くなっていました(図1)。そのため、この両者についてそれぞれの原因を探るため、事故時の代表的なCs化合物である水酸化セシウム(CsOH)を用いた実験を行いました。

CRD交換用レールについては、原子炉格納容器内の配管に用いられるケイ酸カルシウム保温材(以下、保温材)に気相中のCsが化学吸着し、レール上に落下することで線量が高くなったのではないかと考えました。そこで、気相中のCsOHと鋼材との化学吸着実験に用いた同じ装置を用いて保温材についても600〜800 ℃の範囲で調べました。その結果、より明確な化学吸着挙動が見られた800 ℃の例(図2)では、保温材は大きな度合いで収縮するとともに7〜8割の重量増加がありました。また、化学吸着試験後の保温材を72時間純水に浸漬させ、水中に溶出した元素の同定は誘導結合プラズマ発光分光分析、浸漬後の保温材に残存する化合物の同定はX線回折(XRD)分析、それぞれの方法により、水溶性のケイ酸セシウム(Cs2SiO3)や水に溶解しにくいアルミノケイ酸セシウム(CsAlSiO4)の生成が確認されました。その結果から、Csが化学吸着した保温材が収縮し、レール上に落下したために線量が上昇した可能性があると考えられます。

シールドプラグについては、気相中のCsはエアロゾルの形態で存在していると考えられます。そこで、水酸化セシウム水和物(CsOH・H2O)試薬とコンクリートとの混合粉に対して熱重量・示差熱分析やXRD分析を実施することで化学反応の有無を調べました。その結果、室温でも既に水溶性の炭酸セシウム水和物(Cs2CO3(H2O)3)が生成し、200 ℃以上では水に溶解しにくいCsAlSiO4の生成も確認されました(表1)。したがって、気相中のCsがコンクリートと反応するために線量が上昇した可能性があると考えます。

今後は、化学吸着したCs化合物の生成速度や生成割合などを明らかにすることで、原子炉建屋内でのCsの性状を予測することを計画しています。

(中島 邦久)