廃止措置に向けた研究開発

8-7 燃料デブリ等の安全な保管管理を目指して

−水素漏えい・拡散挙動解析に関する研究開発−

図1 燃料デブリ等の放射性物質の保管容器内部の状況

図1 燃料デブリ等の放射性物質の保管容器内部の状況

容器内部に残留した水分が、物質から放出された放射線によって分解して、分解生成物として水素が発生します。

 

図2 水素の漏えい挙動の実験が対象とした部屋(モデル)

図2 水素の漏えい挙動の実験が対象とした部屋(モデル)

天井と側面(右)の各1ヶ所に換気口を設けて、底面から水素を10 L/minで420秒間放出したときの水素の漏えい挙動を調べました。

 

図3 (a)水素濃度の計測点での時間変化と(b)室内での分布

図3 (a)水素濃度の計測点での時間変化と(b)室内での分布

(a)は天井の換気口付近の計測点の水素濃度の時間変化で、計算結果が実験結果を良く再現していることが分かります。(b)は水素放出停止後の水素濃度分布を示しています。@室内に溜まった水素はA天井の換気口から抜けますが、B側面の換気口から外気が流入することで自然換気が生じて、Cこれがさらに室内の水素を低減します。

 


私たちは、東京電力福島第一原子力発電所事故の復旧に向けた取組みの中で、今後取出しを予定している燃料デブリ、廃棄物等の水分を含んだ放射性の物質を安全に保管・管理するための研究開発を行っています。

放射性物質が入った容器は、水を抜いた状態で保管されます。しかし、容器内に水分が残留すると、物質から放出される放射線で水が分解して水素を発生するため、それが燃焼・爆発するリスクが懸念されます(図1)。そこで、保管中に発生した水素を容器や施設内に高濃度で溜めておかないために、水素を酸素と反応させて水に戻す(再結合させる)触媒や放射性物質の放出を防ぐフィルターの付いた排気口(ベント)等を用いた水素対策が検討されています。

これらの対策の妥当性の検証や新たな対策の開発を行う技術として、数値流体力学(CFD)という流れを観察する数値解析・シミュレーション手法を取り入れ、これを用いて水素の漏えいや拡散の研究開発を進めています。その研究の一例として、水素の漏えい挙動の実験をシミュレーションで再現して、さらに換気のプロセス、換気口やその周囲の風等の影響を検証した成果を紹介します。

この実験では、部屋(図2)の天井と側面(右)に換気口を設け、室内の底面にある放出口から水素を10 L/minで420秒間放出して、室内(◆)の水素濃度を計測しました。

図3に水素濃度の時間変化(a)と分布(b)を示します。計測点での水素濃度(a)は実験値と良く一致して、放出開始から上昇し、放出停止後に速やかに低下しているのが分かります。これを室内の水素濃度の分布(b)から詳しく調べると、部屋の外が無風の場合、@放出口から出た空気よりも軽い水素は速やかに天井付近に到達して、A天井の換気口から室外に排出され、それと同時に、側面の換気口から室内に外気が流入して、Bこれが底面に沿って放出口に到達し、Cこれと混ざった水素が急激に低濃度になることが分かりました。一方、部屋の周囲に右から左に風が吹いている場合、側面の換気口が風の当たる面にあるため、@〜Cの換気が加速され、室内の水素濃度は無風時より早く低下しますが、その反対からの風の場合、室内の水素濃度は無風時よりも上昇する懸念のあることが明らかになりました。

今後、このような数値解析・シミュレーション技術を活用し、水蒸気やNOx等の酸化剤ガスが共存する場合の水素挙動等を明らかにしていくとともに、換気口周囲の温度や風の流れといった雰囲気制御を活用した換気システムによる水素の滞留防止技術等の開発に取り組んでいく予定です。

(寺田 敦彦)