廃止措置に向けた研究開発

8-8 水素の燃焼挙動を数値解析により解明する

−火炎の不安定性に及ぼす温度や圧力の影響−

図1 放射性物質を保管する容器の内部の概念図

図1 放射性物質を保管する容器の内部の概念図

 

図2 (a)2次元のシミュレーションでの計算の領域と初期の火炎面の位置及び

図2 (a)2次元のシミュレーションでの計算の領域と初期の火炎面の位置及び(b)0.5 MPa、473 K、5 msでの火炎面の温度分布(Ly = λ)

燃焼していない(未燃)ガスは計算領域の左側から流入して、燃焼した(既燃)ガスは計算領域の右側に流出します。

 

図3 平面状火炎の燃焼速度

図3 (a)0.5 MPa、473 K、5 msでの細胞状の火炎面の温度分布(Ly= 12λ)及び(b)0.5 MPaでの平面状火炎の燃焼速度(Su)、セル状火炎の燃焼速度(Scf)と速度比(Scf/Su)の温度依存性

計算領域の縦軸の範囲を大きくすると、火炎表面のセル状構造の出現と分離がはっきりと現れます。

 


東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃炉では、保管した燃料デブリ等の高放射性の物質に含まれる水分から発生する水素(H2)の管理が重要な課題です。図1のように、保管容器内に残った水が放射性物質から放出される放射線で分解されて(放射線分解)、水素が発生します。この中の水素濃度が燃焼可能な濃度(爆発下限界)に達して、着火源があると、水素が燃焼します。高温高圧等の条件ではその燃焼が爆発となり、周囲の設備や施設の損傷、環境への放射性物質の漏えいが起きてしまいます。また、放射性物質から放出される熱(崩壊熱)で容器内の温度と圧力が上昇して、水素の燃焼に影響を与える可能性があります。したがって、水素を安全に管理するには、水素燃焼時の炎(火炎)の挙動や特性を理解することが必要です。

これを解決する手段の一つとして、シミュレーションや数値流体力学(CFD)解析があります。本研究では、2次元(2D)の流れの場での水素と空気とが均一に混合した際の燃焼(水素−酸素予混合燃焼)をシミュレートして、高温・高圧条件下の火炎の構造と伝播のプロセスを明らかにしました。

図2(a)に火炎面のシミュレーションの計算方法を示します。2D計算では、火炎面は直線で示される「安定な」平面状火炎面(---)とサインカーブで示される「不安定な」初期火炎面()の合成で表されています。その合成火炎面()は未燃のガスに向かって進みます。図2(b)に火炎面の温度分布の結果を示します。縦(y)軸の範囲(Ly)が初期火炎面の波長(λ)程度だと、火炎面(青とオレンジの境目)を詳しく確認できませんが、図3(a)のように、その範囲を大きくすると(Ly = 12 λ)、火炎面が凸凹になり、これが不安定な状態を示すセル(細胞)状構造の形成を表していることがはっきり分かります。

本研究では、水素の火炎の不安定性を、異なる圧力での温度と燃焼速度の関係から調べました。室温で圧力が増加すると、平面状火炎の速度は減少しました。一方、図3(b)のように、高圧で温度が上昇すると、平面状火炎()とセル(細胞)状火炎()の速度が増加しましたが、それらの速度比()は減少しました。それに加えて、火炎面のセル状の構造が目立たなくなりました。これは、予混合火炎の不安定性が未燃ガスの温度が高くなると弱くなること、つまり、未燃ガス温度が高いほど、燃焼がスムーズになることを示しています。以上のことから、温度と圧力が火炎の不安定性と、その特性や挙動に影響を与えることが分かりました。

水素−空気の燃焼・爆発の基本的な特性をさらに明らかにするには、3次元のシミュレーションを適用した研究が必要ですが、これが実現できれば、1Fの廃止措置や高放射性の廃棄物管理の現場での水素の安全対策により確かな情報を提供できると考えています。

(Thwe Thwe Aung)