図1 2号機の空冷シミュレーション対象領域
図2 従来手法と多孔質体モデルの比較例
図3 (a)燃料デブリの温度分布と、(b)空冷による空気の流れ(気流)とその速度分布
東京電力福島第一原子力発電所廃止措置における汚染水対策として、燃料デブリ取り出し時に重要な冷却水停止(空冷状態)条件での燃料デブリ熱挙動の把握が重要視されています。しかしながら、高い放射線量により現地調査が困難であるため、数値シミュレーションの利用が有効です。原子力機構では圧力容器内外の状態を模擬擬した燃料デブリの発熱挙動と空冷による冷却状態を解析評価する手法を開発しました。本手法は、燃料デブリの熱の伝達に対し、周囲の流体(空気)の詳細な挙動や今後明らかになるであろう原子炉内部の構造物情報を正確に反映することができます。加えて、燃料デブリは一様な物質ではなく、細かいデブリが堆積した砂利のような性状である多孔質体(非常に多くの微細な空孔を有する物質)と推定されているため、新たに多孔質体モデルを導入しました。
開発した手法を用いて、図1に示す圧力容器内部の炉心、下部プレナム及びペデスタル底部を対象としてそれぞれに発熱する燃料デブリが存在する条件で、2号機を対象に空冷シミュレーションを実施しました。解析において、各領域での燃料デブリの量、形状、発熱量は、現地観測結果やシビアアクシデント解析コードにより推定された現状最も確からしい知見を反映しました。炉心、下部プレナム、ペデスタル底部のデブリの発熱量はそれぞれ4.79 kW、21.46 kW、8.75 kWと設定しました。図2はデブリを均質な固体として表す従来手法と多孔質体モデルの温度分布の違いを表しています。図より、多孔質体モデルを用いることにより温度分布は明確に異なることが分かります。
図3は各領域の燃料デブリの温度(a)と速度の大きさ分布(b)です。図3(a)では発熱するそれぞれの燃料デブリは周囲雰囲気よりも高温になっており、特に、下部プレナムデブリが最も高温になっていることを確認しました。図2(右)からは、下部プレナムデブリから上方への上昇気流、デブリ上部だけでなく、炉心デブリ及びペデスタル底部のデブリの周囲にも固体モデルでは捉えられなかった複雑な気流とその温度が明らかとなり、時間的に変化する空気の流れを解析できるようになりました。今後は、実験結果との比較による検証と、計算モデルや条件などを様々に変更した解析を実施することで、本解析手法の信頼性及び適用性を向上させていく予定です。
本研究は、経済産業省「廃炉・汚染水対策事業費補助金(燃料デブリの性状把握のための分析・推定技術の開発)」の研究の一部として実施したものです。本研究成果は、原子力機構のスーパーコンピュータ「HPESGI8600」を利用して得られたものです。
(山下 晋)