8-3 マイクロ波加熱装置(電子レンジ)で作るウラン粉末の生成過程

−硝酸ウラニル溶液のマイクロ波加熱直接脱硝法による脱硝反応機構の解明−

図8-2 転換方法の比較

図8-2 転換方法の比較

欧米ではプルトニウムを沈殿法により単体で転換して粉末にしていましたが、日本では核転用のしにくい混合転換法を採用しており、次の利点があります。(1)化学的な処理をしないので放射性廃液の発生量を大幅に低減できます。(2)設備が簡素でコンパクトです。(3)溶液状態でプルトニウムとウランとを混合するため、均一な燃料ができます。

 

図8-3 マイクロ波脱硝試験装置の概略図

図8-3 マイクロ波脱硝試験装置の概略図

マイクロ波加熱装置は3 kWのものを使っています。

 

図8-4 マイクロ波脱硝反応温度

図8-4 マイクロ波脱硝反応温度

マイクロ波加熱後、約20分でウランに付いている水分や硝酸成分が分解し、最終的には酸素だけが付いた酸化物になります。

原子炉で使い終わった燃料は、再処理工場で処理されて使えるウランとプルトニウムが回収されます。欧米ではプルトニウムを図8-2に示すしゅう酸沈殿法で粉末にしてウラン粉末と混ぜて原子炉燃料の原料粉末としています。しかし、この方法ではプルトニウムだけの粉末で取り扱うことになりますから、原子力を平和利用にのみ限定している我が国では、硝酸プルトニウム溶液を硝酸ウラニル溶液と混ぜて直接粉末に転換する混合転換法を採用することで、プルトニウムだけでは取り扱わないこととし核不拡散性を向上させることとしました。脱硝方法として、電子レンジで使われているマイクロ波を加熱源としたマイクロ波加熱(Microwave Heating)直接脱硝法(図8-2)を採用しています。MH法では、ウランとプルトニウムの混合した溶液をマイクロ波で加熱することで、その中の水分及び硝酸を蒸発・濃縮し、更に残った硝酸成分を熱分解させて、酸化物の粉末にします。加熱源にヒータではなくマイクロ波を使うのは、急速加熱できるため粉末が細かくでき、燃料を作りやすいからです。

これまで、MH法の加熱過程で溶液から固体の酸化物になるまでの化学反応については、処理している時の温度から推定していましたが、その詳細は明らかにされていませんでした。

そこで本研究では、まず新たに電子レンジの中で蒸気や硝酸ガスがたくさんある時にも使える温度計を開発しました。開発した温度計を図8-3の試験装置に取り付けてMH法の加熱過程の温度履歴を詳細に測定しました。次に、硝酸ウラニル溶液を使った試験を実施して昇温時に加熱している物質に顕著な温度変化や状態変化が生じた時点(図8-4)でサンプルを採取して熱分析やエックス線分析を行うことで、化学形態を把握して下のような脱硝反応過程を明らかにしました。

UO2(NO32・6H2O→UO2(NO32・3H2O+3H2O

UO2(NO32・3H2O→UO2(OH)NO3+HNO3+H2O

UO2(OH)NO3→β−UO3+0.5H2O+NO2+0.25O2

And/or UO2(OH)NO3→β−UO3+HNO3


●参考文献
加藤良幸ほか, 硝酸ウラニル溶液のマイクロ波加熱直接脱硝法による脱硝反応機構の解明, 日本原子力学会和文論文誌, vol.4, no.1, 2005, p.77-83.