図12-1 原子力分野の研究開発ための計算科学の役割とその成果
1940年代にコンピュータが開発されて以来、その進歩に伴い、計算科学研究は大きく発展し、現在では科学技術研究分野において「理論」「実験」に次いで第三の研究手段として位置づけられています。特に、原子力分野においては、予算や安全性の観点から実験や観測が困難な場合が多く、計算機によるシミュレーションは優れた研究開発の手法のひとつとして、重要な地位を占めてきました。こうした歴史的及び科学的背景の下、私たちシステム計算科学センターでは、図12-1のように「運用・保守」「計算科学基盤技術開発」「先端的シミュレーション技術開発」の三位一体の体制で原子力分野の先端的研究を先導・支援しています。原子力分野の膨大な計算需要にこたえ、最先端の計算科学手法を開発し、様々な物理現象を解明するためには、最も効果的な体制です。以下では「計算科学基盤技術開発」及び「先端的シミュレーション技術開発」の2008年度の代表的な成果を紹介します。
「計算科学基盤技術開発」では、我が国のIT化政策の一環として行われたプロジェクト(ITBL: Information Technology Based Laboratory)を発展させ、原子力研究のための環境として原子力グリッド基盤(AEGIS: Atomic Energy Grid Infrastructure)の研究開発を推進しました。この環境とフランスで開発されたグリッド基盤(DIET: Distributed Interactive Engineering Toolbox)を連携させることで、日仏両国に設置された計算機を有効に利用することを可能にしました(トピックス12-2)。
「先端的シミュレーション技術開発」では、計算機の性能向上を考慮したシミュレーション手法を開発し、それを用いることで、様々な分野の研究開発を支援しています。一例として2008年に発見された鉄化合物の超伝導体の仕組みの解明を目指し、数値シミュレーションにより得られた鉄化合物の電子状態と、SPring-8で得られた結果と比較することで、この超伝導には磁気秩序と格子振動が重要な役割を果たしていることを発見しました(トピックス12-3)。
私たちは、今後も、このような最先端の計算機の有効活用手段やシミュレーション技術の開発に挑戦し、計算科学による原子力研究の先導を目標として活動を進めていきます。