3-1 フェルミウム原子核で出現する特異な核分裂を理論解明

−超重元素の存在限界の理解へ−

図3-2 二つのフェルミウム原子核(254Fmと258Fm)の核分裂における変形経路の違い

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図3-2 二つのフェルミウム原子核(254Fmと258Fm)の核分裂における変形経路の違い

縦軸は原子核の伸びと扁平度(核分裂片のつぶれ方)に対するポテンシャルエネルギーを表します。原子核は、エネルギーが極小となる形状をたどって分裂に至ります(黄色)。切断した瞬間の扁平度に対する分布も示しました。

 

図3-3 核分裂片の質量数に対する収率の理論計算値

図3-3 核分裂片の質量数に対する収率の理論計算値

250, 252, 254Fmでは大小二つの核分裂片が多く生成されますが、256, 258, 260Fmでは鋭く真っ二つに分裂しています。横軸の質量数は、原子核に含まれる陽子と中性子の数の和を表します。

 


核分裂が発見されてから80年たった現在、精度の高い様々なデータが蓄積され、発電炉は原子力エネルギーの利用によって電力を生み出したり、研究用原子炉で得られる中性子ビームは、基礎科学研究やがん治療に使われたりしています。ウランが核分裂すると、大・小の異なる重さを持った核分裂片が生成され、言わば質量非対称分裂を示すことが知られています。しかし、核分裂過程そのものは、その複雑さゆえに完全に理解されておらず、今でも原子核物理学に残されたチャレンジするべき課題となっています。また、核分裂の理解は他の分野にも多大なインパクトを与えます。日本では、理化学研究所を中心としたグループが、新元素である原子番号113のニホニウム(Nh)を発見しましたが、どれほど重い元素を作れるかは、その原子核の核分裂に対する安定性で決まります。これを正確に予測するには、原子核がどんな変形経路をたどって分裂するかを理解する必要があり、また、ウラン領域だけでなく、より重い元素領域の核分裂まで調べることが重要です。

今から40年前、原子番号100のフェルミウム(Fm)の核分裂で、驚くべき実験が報告されました。軽いフェルミウム同位体では、ウランと同様、大・小異なる重さの核分裂片が多く生成されたのに対し、重い同位体の258Fmでは、真っ二つにシャープに分裂、等しい重さの核分裂片が生成されました。このような奇妙な核分裂は、超重元素など重い原子核の核分裂で顕著となり、元素の存在限界に影響すると考えられます。Fmで見られる急激な核分裂の変化を理論的に説明できれば、超重元素に対する理解を深める第1歩になりますが、Fmの核分裂は40年たった今日に至るまで定量的な説明は行われませんでした。

私たちは、原子核が変形してちぎれていく様子を計算でシミュレーションし、この不思議な現象を突き止めました。この様子を図3-2に示します。これは原子核の様々な形状に対するエネルギーを示したもので、原子核は低いエネルギーとなる軌道をたどりながら分裂します。254Fmを見ると、基底形状からスタートし、途中で現れる極小値でしばらく滞留、その後鞍点Bを超えて分裂します。これは、ウランで見られる核分裂の特徴と同じでした。一方、258Fmは、途中で滞留することなく鞍点Aを通って分裂します。結果、図3-3に示すように、254Fmでは質量非対称、258Fmではシャープな対称核分裂となりました。ポイントは、二つの鞍点AとBが競合しており、258Fmのように重くなって初めてAを超える核分裂が支配的になることです。この急減な変化は、シーソーに似ています。シーソーでは、左右の微妙な重さのバランスで傾斜が変化しますが、重い原子核の場合、二つの鞍点の高さが拮抗しており、原子核の重さがわずかに変化しただけで分裂の仕方が変わるのです。このように鞍点Aを通過するタイプの核分裂は、さらに重い元素でも支配的になると予想されます。本成果で得られた重い元素の核分裂の理解は、元素の存在限界を理解する際の重要な知見となります。

本研究は、原子力機構の夏期休暇実習制度により学生が達成した成果です。また、理論を高精度化するため、タンデム加速器施設で取得した核分裂の実験データが活用されました。