9-3 レーザー加工における適切な照射条件を予測する

−レーザー溶融・凝固プロセス計算科学シミュレーションコードSPLICEを用いたレーザー照射加工条件の導出−

図9-6 SPLICEコードによるレーザーコーティングの数値解析結果(a)皮膜形成過程の温度分布、(b)皮膜厚さ

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図9-6 SPLICEコードによるレーザーコーティングの数値解析結果(a)皮膜形成過程の温度分布、(b)皮膜厚さ

 

図9-7 レーザーコーティングにおける粉末供給量とレーザー入熱量を指標とした皮膜厚さの設計空間

図9-7 レーザーコーティングにおける粉末供給量とレーザー入熱量を指標とした皮膜厚さの設計空間

 


ものづくりの現場では、高効率、高速、省エネ、低環境負荷、コスト削減などを目的に製造プロセスへのレーザーの導入が高まっています。しかし、レーザー加工のパラメータは、レーザー波長、出力、パルス幅など多数のパラメータが複雑に絡み合っているため、一つの加工条件の作成に数億通りの実験を要し、多品種少量生産などを志向する産業分野への導入を阻害する要因になっています。加工パラメータの設定には、熟練者の「経験と勘」に頼るのが一般的です。熟練者の行動モデルは、加工プロセスの「観察」を通じて状況を「判断」し、加工性能が不足している場合には対応策を「実行」して状況回復を行います。これら一連の観察・判断・実行を計算機上に再現できれば、熟練者の加工と同等なプロセスが実現できます。そこで適切なレーザー加工条件を予測して、設計空間を可視化する計算科学シミュレーションコードSPLICEを開発しました。

これまでにSPLICEコードを用いて、レーザー溶融・凝固プロセスや、流体の挙動など複雑な物理現象を解析してきました。本報では、近年注目されているレーザーコーティングの加工条件の導出について解説します。レーザーコーティングは、新機能を付与するために、基板とは異なる金属粉末をレーザーによって溶融、堆積させる手法です。レーザーコーティングで高品質な皮膜を形成するには、金属粉末の供給量やレーザーの出力など、基板と粉末の組合せに応じて適切化する必要があります。そこでSPLICEコードにより、条件適切化作業の短縮や、皮膜厚さ等の設計仕様を満たす加工条件の導出ができるようになります。

図9-6は、レーザーコーティングにおける(a)皮膜形成過程の温度分布、(b)皮膜厚さを示しています。Case-1の過入熱な場合では、皮膜が基板に溶け込み、適切な皮膜が形成されないため良いコーティングとはいえません。しかし、Case-2のように粉末供給量、レーザー入熱量を適切に制御すると溶け込みの無い品質の高い皮膜が形成できることが分かります。これらの解析結果に基づき、設計空間を作成します。Case-1、2を含む11ケースの数値計算を行い、図9-7のように粉末供給量とレーザー入熱量に対する皮膜厚さを等高線図で示します。黒プロット(■)は、11ケースの計算結果位置を示し、これらをスプライン補間して皮膜厚さ0.1 mmごとの等高線を実線で表したものです。パラメータには、施工時に可変可能なパラメータである粉末供給量とレーザー入熱量を指標としました。ここで評価したような設計空間は、レーザーコーティング装置による実際の皮膜厚さ特性の特徴をよく再現できることを確認しています。

計算科学シミュレーションコードを利用した設計空間の可視化は、レーザー加工プロセスの適用範囲や利便性を大幅に拡張することにつながります。

本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的設計生産技術」(2014〜2018年度)のうち、「高付加価値設計・製造を実現するレーザーコーティング技術の研究開発」の成果の一部です。