9-4 水素が金属材料に与える影響を計算機により評価

−アルミニウム結晶粒界の水素による自発的分離−

図9-8 金属材料の水素脆化の概念図

図9-8 金属材料の水素脆化の概念図

線は結晶粒同士の境界である結晶粒界です。

 

図9-9 アルミニウム結晶粒界が水素原子の侵入によって分離していく様子

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図9-9 アルミニウム結晶粒界が水素原子の侵入によって分離していく様子

(a)は原子を結びつける電子密度(electron/bohr3)の断面図、(b)は上の電子密度と同じ領域の原子構造と電子密度の低い三次元領域です。左から右へ進むにつれて粒界中の水素原子数が増えていきます。第一原理計算により、アルミニウムの結晶粒界が水素原子の侵入によって粒界に垂直な縦方向に大きく膨張していく様子を捕らえています。

 


軽水炉の原子炉内部の材料は、強い放射線や高温の水蒸気にさらされるため、長期間使用しても劣化しない材料を開発することが重要となります。こうした環境では酸素や水素が材料中に侵入し劣化させる場合があり、さらに次世代の原子炉では水の代わりに液体金属を冷媒に使用するものもあり、液体金属による材料劣化を防ぐことも設計で重要となります。システム計算科学センターではこのような環境中の物質の侵入による材料劣化の仕組みをシミュレーションによって明らかにする研究を行ってきました(図9-8)。その応用展開として、アルミニウムの水素による劣化機構の解明に取り組みました。現在、地球温暖化対策として水素のエネルギー利用が有望視されていますが、そのためには水素を安全に貯蔵する材料が必要となります。一方で水素は多くの金属を脆くすることが知られており、この現象は水素脆化と呼ばれています。水素貯蔵に現在使われているアルミニウム合金は通常の環境では水素脆化を起こしにくいことが知られていますが、より厳しい条件下では脆化することが知られており、そのメカニズムは明らかになっていません。そのため、より良い材料の開発には脆化メカニズムの解明が必要です。

本研究では、物質の性質をつかさどる電子の振る舞いを、量子力学のシュレーディンガー方程式を数値的に解いて調べる第一原理計算という手法を用い、アルミニウムに対する水素原子の影響を調べています。特に水素原子が侵入しやすい結晶粒界について計算した結果、興味深い現象が明らかとなりました。これまで調べてきた鉄などの材料の場合、結晶粒界に水素原子が侵入すると膨張しますが、ある程度以上には膨張しませんでした。しかしアルミニウムの場合、水素原子が入ると結晶粒界のアルミニウム原子間距離を押し広げて新たに水素原子が入る場所ができ、さらに水素原子が入ることで際限なく膨張し自発的に分離していく傾向があるということが分かりました(図9-9)。アルミニウムは鉄に比べて原子同士の結合エネルギーが低く、アルミ原子同士の結合を切り離すと同時に隙間に水素が入ってアルミ原子と結合することで安定化し、弱い力でもゆっくり引っ張ることで水素原子が材料に侵入し割れるというメカニズムを発見することができました。また、このような現象は通常の使用環境では起こらず、高圧や腐食のより厳しい環境でのみ起こり得ることなどが分かりました。

このように、原子力材料研究で開発した研究手法は産業用の金属材料の研究でも威力を発揮し、波及効果を生み出しています。

本研究は、科学技術振興機構産学共創基礎基盤研究プログラム「ヘテロ構造制御:水素分配制御によるアルミニウム合金の力学特性最適化」の成果の一部です。



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