1-12 河川中での放射性セシウムの挙動解明のために

−顕微鏡で見えた川底の鉱物種と放射性セシウムの関係−

図1-23 河床土中の分画ごとの放射性Cs割合

拡大図(116kB)

図1-23 河床土中の分画ごとの放射性Cs割合

細粒砂分画(106〜250 μm:図中枠)の放射性Csの含有割合が他の分画より大きいことが示されました。また、一般的に吸着するとされる粘土分画以外にも比較的多くの放射性Csが吸着していました。

 

図1-24 ダム底質及び河床土中の鉱物ごとの放射性Cs濃度及び鉱物の区分

拡大図(375kB)

図1-24 ダム底質及び河床土中の鉱物ごとの放射性Cs濃度及び鉱物の区分

細粒砂分画中の鉱物を、(a)無色鉱物、(b)雲母鉱物、(c)有色鉱物の3種類に区分しました。上流域から下流域まで、どの地点でも、過去の研究から強く吸着することが示唆されている雲母鉱物だけでなく、有色鉱物の放射性Cs濃度が高く、一般的に吸着しにくいとされている無色鉱物にも放射性Csが含まれることが分かります。

 

図1-25 走査型電子顕微鏡による鉱物表面の観察

図1-25 走査型電子顕微鏡による鉱物表面の観察

(a)無色鉱物中の長石、(b)有色鉱物中の角閃石に風化変質を確認しました。

 


東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウム(Cs)は、河川流域に沈着し、鉱物に吸着後、流水ととともに下流域に移動すると考えられています。河川の底に堆積した河床土において、放射性Csを吸着する鉱物種を特定することは、将来の放射性Csの鉱物から河川水への溶出の程度や放射性Csの堆積挙動を予測するために必要な情報です。本研究では、福島県富岡川を事例として、上流から下流までの河床土及びダムの底質中の鉱物種と放射性Cs濃度の分布を調べました。

富岡川における上流域から下流域にかけて、河床土を採取し、篩や沈降法により標準的な粒径区分(Wentworthの粒径区分を参考にした11区分)に分割しました。それぞれの区分の放射性Cs濃度をGe半導体検出器で測定し、各区分の存在量から放射性Csの総量に対する各区分に含まれる放射性Csの含有割合を求めたところ、細粒砂分画(粒径106〜250 μm)における含有割合が最も大きいことが分かりました(図1-23)。これは、河床土中の細粒砂分画の存在量が他に比べて多いことが一因ですが、一般的に放射性Csを強く吸着する粘土鉱物以外にも放射性Csが含まれている可能性があるため、どのような鉱物に吸着されているのかを明らかにする必要があると考えました。

そこで、放射性Csを吸着している鉱物種を特定するため、実体顕微鏡を用いて形状・色に基づき、ハンドピッキングで分類後、X線回折法で鉱物種を同定した結果、無色鉱物(石英、長石)、雲母鉱物(バーミキュライト)、有色鉱物(角閃石、輝石、磁鉄鉱)の3種類に分類できました(図1-24(a)〜(c))。それぞれの鉱物種の放射性Cs濃度を測定したところ、過去の研究から強く吸着することが示唆されている雲母鉱物だけでなく、有色鉱物にも放射性Csが同程度含まれることが分かりました(図1-24)。また、一般的に吸着しにくいとされている無色鉱物にも放射性Csが存在することが分かりました。放射性Csを吸着しにくいとされている有色鉱物及び無色鉱物について、走査型電子顕微鏡を用いて表面を観察すると、長石や角閃石の表面に風化変質構造(鉱物表面の粗さの増加等)が確認され(図1-25)、これらが放射性Csの吸着に寄与した可能性が考えられました。本研究を発展させ河川水系中での放射性Csと鉱物の吸着、脱離メカニズムを解明し、将来の放射性Csの動態の予測に貢献します。

本研究は、新潟大学との共同研究「放射性セシウムの環境動態に関わる鉱物学的研究」の成果の一部です。

(萩原 大樹)