4-5 異分野連携で太陽放射線の動きをリアルタイムに追跡

−太陽放射線被ばく警報システム(WASAVIES)の開発に成功−

図4-11 WASAVIESシステムの概要

図4-11 WASAVIESシステムの概要

WASAVIESでは、太陽放射線の到来、磁気圏内での伝播、大気中での核反応に対するシミュレーションの結果を統合して放射線量増加を推定し、警報を発令します。その結果は、国際民間航空機関(ICAO)を介して航空機乗客・乗務員の被ばく低減対策に活用される見込みです。

 

図4-12 WASAVIESの計算例

拡大図(333 kB)

図4-12 WASAVIESの計算例

2005年1月に発生した太陽放射線事象のピーク時における(a)高度12 kmの全世界被ばく線量率及び(b)東京(NRT)〜ニューヨーク(JFK)間の標準的な航路上の線量率に対する計算結果を示します。

 


巨大な太陽フレアが発生すると、強烈な磁場により電子や陽子など様々な放射線が加速され、その一部は惑星間空間の磁力線に沿って地球近傍に到達します。その中でも100メガ電子ボルト(MeV)を超える高エネルギーの陽子(太陽放射線)は、磁気圏を通り抜け大気圏に侵入し、大気中の原子核と核反応を引き起こして中性子など様々な二次粒子を発生しながら地表面に到達します。このような事象が発生すると、大気圏内の放射線レベルが上昇し、人体への被ばくを引き起こします。その上昇率は、高度とともに高くなり、航空機高度では、1フライトで公衆の年間被ばく線量限度を超える可能性もあります。そのため、その線量率上昇をいち早く検知して警報を発信するシステムの開発は、宇宙天気及び放射線防護研究の両面から喫緊の課題と認識されていました。

そこで本研究では、宇宙天気、太陽物理、超高層大気学、原子核物理、放射線防護など様々な分野の研究者が協力し、惑星間空間、地球磁気圏及び大気圏内の宇宙線挙動解析モデルを有機的に統合することにより、太陽放射線事象時の大気圏内任意地点での被ばく線量率を自動で計算するアルゴリズムを確立しました。また、その結果をリアルタイムで発信し、必要に応じて警報を発令するシステム(WArning System for AVIation Exposure to Solar energetic particle:WASAVIES)を開発し、情報通信研究機構の宇宙天気サービスの一環として2019年11月より運用を開始しました(図4-11)。この研究で私たちは、大気圏内での宇宙線挙動解析モデルの開発と全解析モデルの統合システムの開発を担当しました。

例として、WASAVIESで計算した2005年1月に発生した太陽放射線事象のピーク時における高度12 kmでの被ばく線量率、及びその際の東京〜ニューヨーク間の標準的な航路における被ばく線量率を図4-12に示します。図より、被ばく線量率は、基本的に極域や高々度で高くなり、緯度・経度・高度に複雑に依存することが分かります。このような詳細な被ばく線量率情報は、国際民間航空機関(ICAO)を介して航空会社に提供され、乗客・乗務員の被ばく低減対策に活用される見込みです。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型)(No.15H05813)「次世代宇宙天気予報のための双方向システムの開発」の一環として実施したものです。

(佐藤 達彦)