図1-2 作製した金属系燃料デブリ要素試料断面の反射電子像
図1-3 ステンレス鋼と炭化ホウ素を主成分とする金属系燃料デブリの形成メカニズム
私たちは、東京電力福島第一原子力発電所(1F)過酷事故によって生成し、現在も原子炉内に残存する“燃料デブリ”に関する研究を行っています。“燃料デブリ”とは核燃料や金属材料、コンクリートなどが高温で反応・溶融した後に冷えて固まったものです。
燃料デブリの取出しや処置方法を検討する上で、その物理的・化学的性状は重要な指標となります。いまだその全容は明らかになっていませんが、燃料デブリはその主成分を踏まえて、次のように分類できると考えられています。
•ステンレス鋼や炭化ホウ素、金属ジルコニウムを主成分とする金属系燃料デブリ
•ウランやジルコニウム、ステンレス鋼等の酸化物を主成分とする酸化物系燃料デブリ
•ケイ酸等を主成分とするコンクリート系燃料デブリ
1Fでは制御棒材料に炭化ホウ素を使用していたことから、鉄鋼材料との共晶溶融反応(材料の融点よりも低い温度での液化現象)により、炭化ホウ素成分を含んだ金属系燃料デブリが多く存在すると考えられています。ところが過去に起きた原子炉過酷事故(米国スリーマイル島原子力発電所や旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所)では、制御棒等の材料や炉型が異なるため、炭化ホウ素を含む金属系燃料デブリは生成していません。
そこで私たちは、“金属系燃料デブリはどのようにしてできたのか?”という形成メカニズムを明らかにするために、制御棒の構成材料であるステンレス鋼と炭化ホウ素を原料として金属系燃料デブリの要素試料を作製し分析しました。図1-2は作製した試料断面の反射電子像です。試料中の炭化ホウ素濃度の増加とともに、“(Cr,Fe)2B相”(クロム、鉄、ホウ素から成る金属間化合物)が大きく、多量に晶出することが分かりました。
詳細に分析したところ、この金属系燃料デブリは図1-3のような過程を経て形成することが分かりました。材料中の炭化ホウ素濃度が低い場合は、高温の溶融金属から“γ-Fe相”(鉄、ニッケル、クロムから成る金属相)が初めに晶出し、その後“(Cr,Fe)2B相”が晶出します(図1-3(a))。炭化ホウ素濃度が高い場合は、初めに“(Cr,Fe)2B相”が晶出し、その後“γ-Fe相”と“(Cr,Fe)23(C,B)6相”(クロム、鉄、炭素、ホウ素から成る金属間化合物)が晶出します(図1-3(b))。また、この形成メカニズムは、試料中の炭素、ホウ素、クロムの挙動から説明できることを明らかにしました。
このように、私たちは、材料学的観点に基づいた基礎研究から、燃料デブリの正体やその特性を実験に基づいて明らかにしようとしています。
本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金若手研究(No.JP20K15209)「高精度かつ簡便な金属系燃料デブリ中ホウ素濃度定量法の開発」の助成を受けたものです。
(墨田 岳大)