図1-30 Csの堆積物への吸着分配係数
図1-31 多段抽出法によるCsの脱離割合
東京電力福島第一原子力発電所(1F)の事故により拡散された放射性セシウム(Cs)は、いまだに森林の土壌に残っており、少しずつ河川水系に流出しています。将来の河川水中でのCs(特に、生物に取り込まれやすい溶けている形態)の濃度を推測するためには、河川水中の濃度を決める堆積物へのCsの吸着メカニズムの解明が必要です。そこで、1Fから北側に位置する小高川と請戸川の下流域において、河川敷の堆積物を採取し、Csの吸着・脱離特性を評価しました。
試験溶液中の添加Csの濃度を変えて堆積物への吸着試験を行いました。試験は直径2 mmのふるいにかけた堆積物に0.01 mol dm-3(M)の塩化ナトリウム(NaCl)溶液を容器に入れて、Cs溶液を添加し、振とうさせました。平衡到達を確認した68日後の試験結果は、いずれの河川堆積物でもCsの濃度が低くなると堆積物に吸着する割合(分配係数、Kd)が増加しました(図1-30)。これは、堆積物に含まれる鉱物にCsを吸着しやすい部分があるが、その量が少ないために濃度が低い場合には相対的に吸着した量が多くなるためと考えられます。次に、吸着試験を行った堆積物を、脱離力の弱い溶液から強い溶液に段階的に入れて、吸着したCsの脱離試験を行い、Csの吸着力の強さを評価しました。吸着試験時の添加Csの濃度が低くなるほど、塩化ナトリウム(NaCl)や塩化カリウム(KCl)で脱離されるイオン交換的な吸着成分の割合が減少し、鉱物表面を溶解する効果がある塩酸(HCl)や、粘土鉱物の層間の間隔を広げる効果があるドデシルアミン塩酸塩で脱離できるCsの割合が増加しました(図1-31)。このことから、堆積物に含まれる鉱物の表面には、比較的容易に脱離する吸着形態と、脱離しづらい吸着形態が混在し、前者の吸着サイトから優先的に脱離されていることが分かりました。また、請戸川に比べて小高川の方が、1F由来のCsだけを吸着した堆積物試料(RI非添加)のイオン交換的な吸着成分の割合が多くなっています。これは、両河川の表層地質環境が異なり、小高川の方が、雲母鉱物よりも風化が進んだスメクタイト(イオン交換的な吸着成分が多い)等の粘土鉱物の割合が多いためと考えられます。
現在の河川水中の放射性Cs濃度は非常に低く(請戸川 : 0.1 Bq/L程度)なっていますが、これはこのようにCsが堆積物中の鉱物の中でも脱離しづらい部分と強く結合しているためと考えられます。今回得られた吸脱着特性は、将来の河川水中の放射性Cs濃度の推測に役立てていきます。
(藤原 健壮)