図1 Na/Al比に応じて生成したゼオライトの種類と構造
図2 推定したゼオライトの生成経路
放射性廃棄物を安全に地中に処分するために、セメントやガラスなどの固化材料を用いて、廃棄物を容器内に固定化することが必要です。ガラスは網目状の構造(非晶質構造)に放射性元素を閉じ込めることができますが、高温処理が必要です。セメントは、常温で作製可能ですが、閉じ込め性能がガラスよりも劣ることが知られています。
私たちは新しい固化材料の候補として、セメントのように常温で硬化し、ガラスのような非晶質構造の中にセシウムといった放射性元素を閉じ込めることができるジオポリマーに着目しています。ジオポリマーの特性を活かし、廃棄物の中に含まれる放射性元素や有害物質を閉じ込める処理技術として、放射性廃棄物の処理に適用するための研究開発に取り組んでいます。
ジオポリマーは、時間の経過とともに非晶質構造の一部が変化し、ゼオライトのような結晶成分が生成してくることが分かっています。地中に廃棄体を処分した後も安定して放射性元素や有害元素を閉じ込めるためには、長期にわたる廃棄体の性能の変化を推定することが重要です。そこで今回は、ジオポリマーの材料配合が生成するゼオライトの種類にどのような影響を及ぼすかを調査しました。
材料は、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)からなる非晶質構造を有するメタカオリンとアルカリ剤として水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を用いました。材料配合は、アルカリ剤とメタカオリンの量比としてNa/Alモル比(以下、Na/Al比)を1.18、2.03及び3.05と変化させました。20 ℃の恒温槽内で最大112日間保管し、X線回折分析により固化試料の結晶成分を、赤外分光分析により化学結合の変化を調査しました。
保管後28日目以降からゼオライトが生成し始め、112日間保管した固化試料では、Na/Al比1.18では、X型ゼオライト及びA型ゼオライトが、Na/Al比2.03では、A型ゼオライト及びソーダライトが、Na/Al比3.05では、ソーダライトのみが生成しました(図1)。Na/Al比に応じて、ジオポリマー中に生成するゼオライト相が異なることが分かりました。また、赤外分光分析により得られた化学結合の変化と既往の知見*を踏まえて、Na/Al比が異なった場合のゼオライトの生成経路の違いを推定することができました(図2)。
今後は、ゼオライトの生成が、放射性元素の吸着性能や圧縮強度などのジオポリマー固化体の性能に及ぼす影響の調査を進め、従来よりも性能を高めた放射性廃棄物の固化材料の開発に取り組んでいきます。
(佐藤 淳也)
* Mohau, M. et al., A Review of the Chemistry, Structure, Properties and Applications of Zeolites, American Journal of Materials Science, vol.7, issue 5, 2017, p.196-221.