図2-9 改良9Cr-1Mo鋼のクリープ破断時間と応力の関係
図2-10 改良9Cr-1Mo鋼のNa中構造物試験の例
今後の高速炉では、従来にも増して信頼性を向上させると同時に合理的な設計を実現する必要があり、その鍵を握る構造材料について研究開発を進めてきました。現在設計研究中の高速実証炉では、機器に求められる高温強度や熱的特性に最も適合した材料を採用する観点から、原子炉容器等の材料には316FR鋼を、1次主冷却系配管を含む冷却系全般には改良9Cr-1Mo鋼を採用する方針です。316FR鋼は原子力機構が中心となり我が国で高速炉用に開発した材料、改良9Cr-1Mo鋼はオークリッジ国立研究所(米国)で開発されましたが高速実証炉への適用を目指して我が国で集中的に研究開発を実施してきた材料です。
高速実証炉の定格運転温度は550 ℃程度であり、設計寿命は60年を指向しています。このような条件での設計を実現するために、高温で応力が継続的に負荷されるクリープ,熱応力が繰り返し負荷される疲労及びこれらが重畳するクリープ疲労などの負荷モードに関する材料試験データを取得し評価を行いました。例えば、加熱した試験片に重錘により引張応力を発生させることにより破断に至らしめるクリープ試験については、破断時間が100000時間 (約11.4年) を超える長時間データを取得しデータベースを構築するとともに、力学的及び金属組織学的観点から分析を実施し強度特性の定式化を行いました。定式化にあたっては、316FR鋼では高速炉の温度域での優れた特性を生かすこと、改良9Cr-1Mo鋼では応力レベルによって特性が異なる点(図2-9)に着目した定式化を行いました。この結果、高温強度の目安として550 ℃,300000時間(約34.2年)のクリープ破断強度の評価値を高速原型炉に用いられていた材料と比較しますと、316FR鋼では従来材であるSUS304鋼に比べて1.7倍、改良9Cr-1Mo鋼では同様に2 1/4Cr-1Mo鋼に比べて2.3倍に向上することが分かりました。また、これらの新たな2鋼種について、より実機に近い環境であるNa中でも構造物試験を実施し、従来の設計基準により信頼性の高い設計が可能であることを確認しました(図2-10)。これらの結果により、高速実証炉の設計自由度を大きく拡大することができました。
この成果は、一般社団法人日本機械学会 (JSME) 発電用原子力設備規格 設計・建設規格<第II編 高速炉規格>2012年版として規格化されました。