4-4 溶媒抽出メカニズムの解明に向けて

−界面に存在する金属イオンをレーザーを使って観測−

図4-8 (a)一般的な溶媒抽出の概略図(b)本研究法の概略図(c)本研究で明らかにした界面における金属イオンの構造

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図4-8 (a)一般的な溶媒抽出の概略図(b)本研究法の概略図(c)本研究で明らかにした界面における金属イオンの構造

実際の溶媒抽出の系から(a)有機相を除去することによって(b)、金属イオンは界面に吸着し留まりやすくなります。この界面に留まった金属イオンを可視(Vis)光と赤外(IR)光のパルスレーザーの入射によって発生する和周波(SFG)光を検出することで捉え、界面に存在する金属イオンの構造を明らかにしました(c)。

 

図4-9 ヘテロダイン検出振動和周波発生分光法という先進的なレーザー分光法によって得た界面の振動スペクトル

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図4-9 ヘテロダイン検出振動和周波発生分光法という先進的なレーザー分光法によって得た界面の振動スペクトル

Eu3+の濃度を増やしてゆくと、水のバンドの符号が正から負に反転する結果を得ました。水のバンドの符号は界面に存在する水分子の向きと対応しており、負の水のバンドは、図4-8(c)のように、抽出剤に吸着したEu3+に水分子が下向きで結合していることを示しています。

 


溶媒抽出法とは、水と油が混ざらない性質を利用し、金属イオンが溶けている水と、抽出剤と呼ばれる薬品を溶かした油を接触させ、目的とする金属イオンを水から油へ移動させて分離する方法です(図4-8(a))。溶媒抽出法は、原子力発電により発生した放射性廃棄物の処理方法として、現在最も重要視されている方法で、この技術を高めることは、非常に重要な研究課題です。

これまで溶媒抽出法の技術を高めるために、水中の金属イオンの構造と油に移った後の金属イオンの構造に注目した基礎研究が行われてきました。一方で、水と油の接触する界面で、金属イオンが油へ抽出されるきっかけとなる反応が起こるので、界面で起こる反応のメカニズムを解明することができれば、溶媒抽出技術を向上させるための新しい手掛かりが得られると期待されます。しかしながら、界面において抽出される金属イオンの様子を観測することは困難で、溶媒抽出の際に界面で実際に何が起こっているのか、よく分かっていませんでした。

本研究では、界面から油へ移動する直前の金属イオンの様子を捉えるために、油を除去した、空気と水の界面(水表面)に留まった金属イオンを先進的なレーザー分光法により観測しました(図4-8(b))。実験では、一般的な溶媒抽出の代表例として、抽出剤にジ-2-エチルヘキシルリン酸(HDEHP)、金属イオンにユウロピウムイオン(Eu3+)を選び、界面の振動スペクトルという実験データを得ました(図4-9)。Eu3+の濃度が増えるにつれ、正の符号の水の信号が、負の符号の信号に変化することを見いだしました。これは、Eu3+の濃度が増えるにつれ、界面で上を向いていた水分子が、下を向くようになったことを示しています。すなわち、Eu3+の濃度を増やすと、図4-8(c)に示すように、界面のHDEHPにEu3+が吸着し、さらにそのEu3+に水分子が下を向いて結合していることを意味しています。このようなEu3+がHDEHPと水分子に挟まれた構造は、有機相中でも水相中でもこれまで報告されておらず、Eu3+は界面で特有の構造を形成して存在することを突き止めました。

以上の結果から、HDEHPを用いたEu3+の溶媒抽出の反応モデルを次のように提案しました。Eu3+は水相では水分子に取り囲まれていますが、界面にくるとHDEHPと水分子に挟まれた構造を形成し、その後にHDEHPに取り囲まれて有機相に抽出されていくというモデルです。

今後は、実際の放射性廃棄物の溶媒抽出において、界面で何が起こっているのかを明らかにし、金属イオンの回収率や分離能力等の向上につながる研究を行っていきます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金若手研究(B)(No.17K14919)「液液界面で起こる溶媒抽出機構の解明とそれに基づいた核分裂生成物の分離法の開発」の助成を受けたものです。