5-6 ガラス固化体中の白金族元素の化学状態を突き止める

−放射光イメージングXAFS異種元素相関解析を利用した最先端分析−

図5-17 ガラス試料中のRu及びRhの分布相関

拡大図(396kB)

図5-17 ガラス試料中のRu及びRhの分布相関

(a)のイメージング画像からRuとRhのXAFS信号を求め、その吸収端ジャンプ量から、(b)画像中各ピクセルの吸収端ジャンプ量の相関プロット及び(c)各元素の存在量をグレースケールで表した分布図を導出します。

 

図5-18 分布相関ごとに分離導出したイメージングXAFSスペクトル

拡大図(473kB)

図5-18 分布相関ごとに分離導出したイメージングXAFSスペクトル

図5-17(b)のRuとRhの分布相関に基づき画像中の領域を特定し(a)、それぞれの領域ごとにイメージングXAFS信号を導出します(b)。標準試料のスペクトル(破線)との比較から、Ruが多く分布する領域(赤色)のRhの化学形は酸化物であり、一方、Ruの分布量が少ない領域(青色)のRhの化学形は金属であることが分かります。

 


使用済燃料の再処理により発生する高レベル放射性廃液は、ホウケイ酸ガラスと高温で溶融混合され、ガラス固化体として中間貯蔵の後、地層処分される計画になっています。ガラス固化体には、30以上もの元素が含まれており、ガラスによく溶けるものもあれば、溶けにくいものもあります。これらの各元素の化学状態や局所構造を調べることは、ガラス固化体の健全性を担保する上で非常に重要です。放射光XAFSX-ray Absorption Fine Structure)分析は、高い元素選択性と微量成分への適応力が高いことから、ガラス固化体中の各成分の分析に世界中で幅広く用いられています。私たちは、このXAFSに二次元分解能を加えたイメージングXAFS技術を開発し、対象試料中の元素の分布を求めるとともに、特定領域のXAFS信号を選択的に取り出す分析に利用しています。白金族元素(Ru、Rh及びPd)は、ホウケイ酸ガラスに溶けにくく、ガラス溶融炉の底部に蓄積し、しばしば固化体製造プロセスの障害になっています。そこで私たちは、ガラス固化部と協力し、ホウケイ酸ガラス中の白金族元素の挙動について、イメージングXAFSにより詳細に調べました。

図5-17は、廃液成分を含んだホウケイ酸ガラス試料の放射光イメージングXAFS分析の結果です。図から明らかなように、ガラス中のRuとRhの分布は均一ではなく、凝集析出していることが分かります。ここまでは既に分かっていたことであり、わざわざ放射光を使って調べるまでもありません。本研究の特長は、これらRuとRhの分布の相関を調べ、その相関の特徴を基にXAFS信号を分離して求めたことにあります。ホウケイ酸ガラス中のRhの化学状態には特異的な性質があり、金属と酸化物が混在していますが、観察される酸化物の化学形が化学平衡の観点から予想されるRh2O3ではなく、RhO2のみであることが先行して行われたXAFS分析から分かっています。

図5-17(b)は、画像中の各ピクセルから求めたRuとRhのイメージングXAFSの吸収端ジャンプ量(元素の存在量に比例)のX-Yプロットです。この分布相関から、Ruが多く分布している領域(赤色)、Ruがあまり分布していない領域(青色)、Rhが多く分布している領域(黄緑)のように領域を分けました。X-Yプロット中の各点は、それらを図5-18(a)に色分けして示すように、画像中に1対1で対応させることができます。この後、この画像中の各領域からのX線強度を得て、図5-18(b)に示すように領域ごとのイメージングXAFSスペクトルを取得しました。解析の結果、Ruが多くあるところのRhの化学形はRhO2であり、Ruが少ないところの化学形はRh金属であることが分かりました。さらに、Rhが多く分布している場合の化学形はRh金属でした。

これらの結果は、Rhの化学形は基本的には金属ですが、Ruと分布が一致しているところだけ、Rhの化学形がRhO2であることを示しています。つまり、ガラス中のRhの化学状態は、Rhそのものの熱力学的性質よりも、Ruとの分布相関により強く支配されているのです。私たちはこのイメージングXAFS分析技術を、様々な元素同士の相関にも適用し、ガラス固化体中の複雑な化学的挙動を解明し、ガラス固化技術の高度化に貢献したいと考えています。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(No.15K04739)「空間分解能を備えたイメージングXAFSによる異種元素間の化学的相関分析」の助成を受けたものです。



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